USのガレージメーカーとして、ウルトラライトでありながら鮮やかで繊細なプリントを施した DCF製品を展開する High Tail Designs(HTD)。
中でもプリントDCFを採用したファニーパックはブランドの代名詞的存在で、シンプルな構造ながら絶妙なサイズ感と使い勝手の良さから高い人気を誇っています。
そんなHTDに、2025年、新たに「TX」という素材が加わりました。
このブログをご覧の方であれば、その存在はすでにご存知かもしれません。しかし、この新素材についてはウェブ上でも情報がまだ少なく、「結局どんな素材なのか?」を正確に理解している方は多くないのではないでしょうか。
本記事では、TXシリーズがどのような素材なのかをわかりやすく解説するとともに、実際に High Tail Designs のオーナー兼デザイナーへ行ったインタビュー内容をもとに、どのような思想から生まれた素材なのか、そしてどのようなユーザーに向いているのかを整理していきます。
DCF にするか TX にするか迷っている方はもちろん、「そもそも DCF とはどんな素材なのか?」という方にとっても参考になる内容です。ぜひ最後までお読みください。
チャレンジ社のULTRAファミリーに新たに加わった TXシリーズ
TX素材とは何か——。
一言で表すなら、「チャレンジ社が展開する Ultra の設計思想を継承した派生素材」です。
TXシリーズがアメリカの高機能テキスタイルメーカー Challenge Sailcloth 社(チャレンジ社)の製品であることはご存知の方も多いでしょう。しかし、それが Ultraシリーズの思想をベースに開発された素材であることまでは、あまり知られていないかもしれません。
現在のULハイエンド市場を牽引している二大素材が、DCF と Ultra です。いずれも世界一軽くて強靭な繊維と称される UHMWPE(Ultra High Molecular Weight Polyethylene) を使用し、軽さと強度を高次元で両立させた次世代ULファブリックとして広く認知されています。
DCF は超軽量性と高い引き裂き強度、そして非常に高い防水性能を特徴とする素材です。一方、Ultra は織物構造を採用することで、DCF よりわずかに重量が増す傾向はあるものの、高い引き裂き強度と防水性能に加え、優れた耐摩耗性を備えています。設計思想は異なりますが、いずれもULシーンを象徴する存在です。
この Ultra を基準に、用途や設計思想に応じて派生した素材群を、本記事では便宜上「Ultraファミリー」と呼んでいます(※公式名称ではありません)。
例えば、バックパックのストレッチポケット用途を想定した UltraStretch や、100%リサイクルナイロンを用いた UltraGrid などがこれにあたります。UltraGrid の引き裂き試験では「does not tear(試験範囲内では引き裂かれなかった)」という結果が示されており、UltraStretch もストレッチ素材でありながら100ニュートン以上の引き裂き強度と20,000回以上の摩耗試験に耐える性能を持っています。これらの数値からも、Ultraシリーズが引き裂き強度と耐久性において非常に高い基準を持っていることがわかります。
TXシリーズは、こうした Ultra の設計思想をベースに、用途特化型として新たに開発された素材と捉えることができます。
TXシリーズは、Ultra と並びチャレンジ社を象徴する素材 EcoPak のテクノロジーをもとに開発された新素材。他の同社素材と同様、バイアス方向に入る補強繊維が特徴的なディテールだ。
プリント適性に特化したTXシリーズ
TXシリーズは Ultraファミリーのラインナップにおいて、「プリント適性に特化した素材」であることが公式にも述べられています。とはいえ、「なぜ DCF にはプリントができるのに Ultra には難しかったのか?」と疑問に思う方もいるでしょう。その答えは、両者の構造の違いにあります。
DCF は UHMWPE繊維を並べて、ポリエステルフィルムでサンドイッチしたラミネート構造です。表面がポリエステルフィルムであるため、フィルムに対してプリントを施すことが可能でした。
一方、Ultra は UHMWPE繊維とポリエステル繊維を織り上げたファブリック構造です。UHMWPE は分子構造上、他の分子と結合しづらい素材であるため、染料が定着しにくいという性質があります。そのためプリント用途には適していませんでした。
この課題を埋めるために開発されたのが「TXシリーズ」です。
TX は三層構造になっており、表面にはリップストップ構造の高強度ポリエステルファブリック、中間層にはバイアス状に配置された UHMWPE繊維、裏面には防水フィルムを採用しています。この表面のポリエステルファブリックによって、DCF 同様にプリントを可能にしています。
引き裂き強度については Ultraシリーズの思想を受け継ぎ、「does not tear(試験範囲内では引き裂かれなかった)」という非常に高い基準を示しています。耐摩耗性については Ultra 100X などのバックパック向け素材と比較すると控えめですが、TX はもともとポーチやスタッフサック、ファニーパックなど、バックパックほどの高い摩耗耐性を必要としないギア向けに開発された素材です。その用途を考えれば、十分な耐久性を備えていると言えるでしょう。
実際に HTD でも導入前に TX を用いたテストを行い、ファニーパックやスタッフサック、ショッピングバッグ用途において十分な品質を担保できると判断したとしています。軽量性では DCF に軍配が上がる場面もあるものの、TX は「耐久性が高く、しなやかで、プリント適性にも優れた素材」と評価されています。
DCF と TX は試験方法が異なるため純粋な数値比較はできませんが、TXの開発にはキューベンファイバー(現DCF)の初期開発に関わったスタッフが携わっているとされており、設計思想の面では DCF と近い水準を目指していることがうかがえます。

TXシリーズはUL素材であるため、印刷が可能とはいえ繊細な表現は容易ではない。発色の良い色彩や細かなディテールを美しく再現するには、高度な印刷技術が求められる。
DCF と TXの違い
ここまで読まれた方の中には、「結局どちらも同じなのでは?」と感じた方もいるかもしれません。実際のところ、性能面で決定的な優劣があるというよりも、違いは “スタイル” にあります。
スタイルと言うと広義ですが、具体的には「重量」「質感」「発色」「エイジング」に違いがあります。どちらが優れているという話ではなく、使用用途や好みに応じて選べる関係性にあると言えるでしょう。
実際、TX が追加されたからといって DCF が置き換えられるわけではなく、DCF の供給が続く限りラインナップとして併売される予定のようです。この点からも、両素材は代替関係ではなく、HTD における選択肢として位置づけられていることがうかがえます。
質感の違い
ファニーパックで比較すると、DCF は剛性のあるスムースな生地感で、マットなプリントの質感が特徴です。一方、TX はグリッド状の補強繊維が視覚的なテクスチャーとなり、よりアウトドア素材らしい生地感です。しなやかでやや光沢があり、印刷の発色も DCF に比べてクリアな印象です。

ファニーパックに使用されている DCF は、やや黄色味を帯びた柔らかなトーンで、優しい雰囲気を持つ素材だ。一方で TX は、クリアで澄んだ白が印象的で、よりすっきりとした表情を見せる。同じプリントでも、ベース素材の違いによって受ける印象は変わる。
エイジングの違い
DCF は表面がフィルム構造のため、使用に伴ってシワが入りやすく、使い込むほどにくしゃくしゃにした紙のような質感へと変化していきます。TX は織物構造のため、一般的なナイロンバッグに近いエイジングをします。極端なシワ感は出にくく、比較的安定した経年変化を見せます。

DCF特有のシワは使い込むほどに増えていき、原状回復しづらい素材のため、厚みによって凹凸もできていくが、それがULらしい味とも言える。(画像は他社の製品)
重量の違い
重量については大きな差はありませんが、織り構造を持たない DCF の方がわずかに軽量です。
強度・耐久性の違い
両素材は試験方法が異なるため、強度については単純な数値比較はできません。しかし、シワのなりやすさや表面素材の構造から考えると、TX の方が長期の使用に向いていると考えられます。実際に HTD でもテストを行い、耐久性に優れているという評価に至ったようです。

細部の線や色の重なりはもちろん、沈みがちな水彩画のグラデーションもしっかりと表現されている。UL素材とは思えないほど高精度なプリントだ。
TX と DCF、それぞれが向いている人
DCF が向いている人
とにかく1gでも軽さを追求したい方。UL らしい素材感や、DCF 特有の質感を楽しみたい方。そして、使い込むことで生まれる “くしゃくしゃにした紙のような質感” を気にせず、むしろ味として受け入れられる方に向いています。
TX が向いている人
使用や経年による劣化をできるだけ抑え、安定した状態を長く保ちたい方。耐久性を重視し、できるだけ長く使い続けたい方に向いています。
HTDの印刷技術を堪能できるアーティストシリーズ
TARCIT では、HTD の世界観をより深く体感していただくために、アーティストシリーズのファニーパックにおいて DCF とTX の2つの素材から選べるようにしています。

Hannah Beimborn
自然や世界そのものへの敬意、そしてそこから伝わってくるメッセージにインスピレーションを受け、水彩とペンで表現するアーティストです。
👉「High Tail Designs The Ultralight Fanny Pack – Hannah Beimborn」商品ページへ

Ash Ryan
鮮やかで彩度の高い色使いと滑らかなグラデーション、リアリティのある表現を特徴とし、社会正義や多様性、環境問題、女性の権利といったテーマを探求しながら、強い印象を残す作品を数多く手がけています。
👉「High Tail Designs The Ultralight Fanny Pack v1.5 – Ash Ryan」商品ページへ

Andrew Marshall
ノースカロライナ州を拠点に活動するライター兼ビジュアルアーティスト。グレート・スモーキー山脈国立公園付近で暮らしながら、新聞社での執筆に加え、紙媒体やウェブメディアへ寄稿しつつ創作活動を行っています。
👉「High Tail Designs The Ultralight Fanny Pack v1.5 – Andrew Marshall」商品ページへ
以上、いかがでしたでしょうか。TX と DCF、それぞれに異なる個性がありますが、どちらを選んでも High Tail Designs の優れたプリント技術を体感できることに変わりはありません。
UL素材は非常にデリケートで、一般的な印刷では発色が淡くなったり、細かな表現がぼやけてしまうことも少なくありません。とりわけ水彩画や油絵のような繊細なグラデーションや筆致を再現することは容易ではありません。
しかし High Tail Designs のプリントは、その難しさを感じさせないほど 細かなディテールまで再現されています。アート作品のような細部のニュアンスまでしっかりと表現されており、単なる “プリントギア” という枠を超えた存在感があります。
HTDのアートを身に付け、フィールドへ持ち出すこと。それもまた、アメリカのUL文化のひとつの表現と言えるでしょう。
ぜひ実際に手に取り、その質感と表現力を体感してみてください。